実物資産と経済的取引 - 「用役」

用役

説明

 この文章では、用役を、「使用者の視点では無限在庫として扱われ、在庫管理を必要としないマテリアル及びエネルギー」と定義します。言い換えれば、必要な時に必要なだけ常に入手できる(はず)のマテリアル及びエネルギーです。ガス、蒸気、洗浄水、電気、圧縮空気などが該当します。

 あくまでも、無限在庫として扱われるのは使用者の視点からです。供給者の視点から見れば、有限の在庫として扱われる場合もありえます。例えば、プロパンガスがそうです。一般的に、プロパンガスを使用するとき、ガスボンベの中のプロパンガスの残量をいちいち気にしたりしません。プロパンガスの残量を把握し、適切に管理するのは、供給者であるガス会社の役目であって、使用者の役目ではないからです。

 供給者の目から見れば、プロパンガスのボンベは、一本二本と数えられる在庫できるマテリアルです。ガス会社は、プロパンガスのボンベを在庫し、在庫量を把握し、管理しているはずです。そうしなければ、サプライチェーンのどこかで在庫切れが発生し、消費者にとって必要な時に必要なだけ常に入手できなくなるからです。

 同様なことが、他の用役の供給者にも言えるでしょう。マテリアルが、部品倉庫や製品倉庫に在庫されるように、供給者は用役も在庫します。都市ガスの供給者(ガス会社)は、供給所のガスホルダーなどでLNGガスを在庫します。電気の供給者(電力会社)は、石炭やLNG、石油、ウラン、ダムの水という形でエネルギーを在庫します。廃棄物発電の場合、ごみピットの廃棄物として、エネルギーを在庫します。飲料水や農業用水ならばダムに在庫します。電力ならば蓄電池、充電式電池や揚水発電所の水の位置エネルギーという形で在庫します。

 在庫を気にせず供給できるものもあります。圧縮空気がその例です。圧縮機を使って大気中から空気を取得し、工場全体に圧縮空気を送る場合、空気の在庫など気にしません。無尽蔵にあるものと考えるからです。同じようなものに、太陽光、風力があげられます。

 用役は、消費に伴って、その性質や形状を変化させます。LNGは燃焼によって熱と二酸化炭素に変わります。電気エネルギー(電力)は、モータを回転させたり、ヒーターを加熱させたりして、運動エネルギーや熱エネルギーに変わります。洗浄水は、汚水となって下水道に流れます。

 用役の具体例として、次のようなものがあげられます。

 

・電気

・ガス

・水道水

・洗浄水

・蒸気

・圧縮空気

・熱供給の熱

・富山の薬売りの薬

 

具体例

 LNG火力発電所の発電 電力会社は、商社から液化天然ガスというマテリアルを購入します。LNG発電所に供給され、ボイラーで燃焼し、高温・高圧の水蒸気を生成し、タービンを回転させ、タービンは発電機を回して電力を生産します、これは、天然ガスの化学エネルギーから熱エネルギー、運動エネルギーを経て電気エネルギーに変化するエネルギーの変換です。電力は、生産とほぼ同時に需要家によって消費されます。需要家は、電力消費量に相当する貨幣を、電力会社に支払います。

 

 風力発電所の発電 風力発電所は、ブレードに風が当たり、ナセル内の発電機が回転することで、電力が発生します。風力では、空気の運動エネルギーを発電機の運動エネルギーに変換し、さらに電気エネルギーに変換しています。

 火力発電所風力発電所を比較した場合、風力発電所の特徴のひとつは、発電所の外部から運動エネルギーという用役は用達しているが、マテリアル(燃料)を調達していないことです。

 もうひとつの特徴は、外部から調達した実物資産(この場合は風力エネルギー)に対し、貨幣による支払いが発生していない点です。

 電力会社は、設置した風力発電所から電力を生産します。生産された電力は、需要家が消費します。風力発電所は、火力発電所とは違い、需要に合わせて生産量を制御できません。そのため、需要と供給を一致させるためには、デマンドレスポンスなどにより需要を調整[1]する、蓄電池などにより電気エネルギーを在庫する、などの仕掛けが必要になります。需要家は、電力消費量に相当する貨幣を、電力会社に支払います。

 

[1] この需要と供給を一致させる方法として、揚水発電所、定置型蓄電池、電気自動車の蓄電池、蓄熱、デマンドレスポンス、VPP(仮想発電所)などがあげられます。