実物資産と経済的取引 - 「リソースによるサービス」

説明

 サービスとは、具体的なリソースを提供することです。サービスの経済的取引とは、リソースの利用権の取得、占有そして解放です。この経済的取引にあたり、リソースそのものの所有権は移転しません。大抵の場合、対価はリソースの占有時間に単価を掛けて算出されます。サービスは、在庫がきかないという特徴を持ちます。また、サービスを提供し続けるためには、リソースを維持し続ける必要があります。

 工場において、リソースに該当するものとして、「機械設備」「運転員」「金型」「治工具」「物流資材(パレット、通い箱、コンテナ等)」「触媒、助触媒、化学処理材」「作業場所」「作業員」があります。これらの特徴は、製造に伴って消費されないことです。また、これらのリソースは、製造作業中は占有されますが、作業が終わると解放され、元の状態に戻ります。[1]

 宿泊業では、リソースに該当するものとして客室があげられます。宿泊客は、ある一定期間、客室というリソースを占有します。料金は、占有時間(宿泊日数)によって決まります。客室の所有権が宿泊客に移転しているわけではありません。宿泊客のチェックアウト後、ベッドメイキングやクリーニングなどの維持作業が行われ、元の状態に戻ります。

 鉄道業においては、リソースに該当するものとして鉄道車両があげられます。ある駅からある駅まで、利用者が移動したとき、移動中の利用者は少なくとも人間一人分の空間を占有しています。利用者が下車すると、占有していた空間は解放され、元の状態に戻ります。ただし、対価は、占有時間ではなく移動距離によって決まります。

このような、リソースを用いたサービスの例として、以下の例が挙げられます。

 

・      労働力の提供

・      設備のメンテナンス

・      宿泊サービス

・      機械のレンタル

・      荷物や人員の輸送・保管

・      高速道路の利用

・      MVNO事業者による通信キャリアが所有する通信設備の利用

・      第二種鉄道事業者による第一種鉄道事業者の鉄道施設の利用

・      金型、治工具、物流資材(パレット、通い箱、コンテナ等)の利用

・      触媒、助触媒、化学処理材の利用

 

[1]佐藤知一・山崎誠,「部品表入門」,日本能率協会出版センター,2005,p88

リソースの維持

経済的取引にあたり、リソースそのものは消費されません[2]。しかし、リソースを常に同じ状態に保つためには、定期的な実物資産の投入が必要であり、そのために対価を必要とします。実物資産が必要な理由は、ふたつ考えられます。それは、

 

1.使用(占有)が派生しない場合でも、リソースそのものを維持するため。

2.使用(占有)が発生した場合、使用(占有)に伴って減耗した部分を再生するため。

 

です。

 

・「リソースそのものを維持」

リソースが労働力であれば、睡眠、食事、娯楽などです。私たちが普通、消費活動と呼んでいる活動(たとえば、娯楽…映画館へ行って話題作を見る)もその中に含まれます。これらは、経済的取引(雇用者による労働力の占有)がなくても発生します。リソースが自動車であれば、試運転のためのガソリンが該当します。機械設備であれば、定期的なメンテナンス作業が該当します。

 

・「減耗した部分を再生する」

どのようなリソースでも、使用(占有)に伴って減耗します。この減耗した部分を、元の状態に戻すために、何らかの実物資産が必要になります。

疲労した労働力には休息が必要ですし、怪我をした労働力には医療が必要です。ホテルのトイレットペーパー、自動車のブレーキパッド、鉄道車両の制輪子、圧縮機のVベルト、高熱で変成したエンジンオイル、鉄道のレール…みな使用(占有)に伴って減耗し、交換・修理・補修・補充などの作業が必要になります。

 

[2]リソースの所有権が誰かに移転したり、リソースが何か別のものに変化して、利用できなくなったりするわけではありません。電車に乗る時のことを考えてみてください。鉄道車両の所有権が、鉄道会社から利用者に移転したり、鉄道車両が消えてなくなったりするわけではありません。ガソリンを買うのとはまったく別です。

 

具体例

組立現場のネジ締め用電動トルクドライバ(リソース)とそれによるねじ締め作業(サービス)

 製品のトルク管理が重視される場合、一般的に人力でネジを締めずに、電動トルクドライバを利用して、ネジを占めます。” 安定性”(トルク値のばらつきが少ない)、“確実性”(トルク値が規定値内を必ず入っていること)を確保でき、”標準化”が可能だからです。この価値は、作業者がトルクドライバを手に取り(占有)し、ネジを締め、元の場所に置く(解放する)ことで、提供されます。この電動トルクドライバの所有権が企業にあった場合、別の立場からみたら別の価値があるのかもしれません。たとえば、”即応性”(使いたいときに使える)、”汎用性”(製品を定めずに使える)という価値を持っているのかもしれません。

 リソースを維持するためには別の実物資産が必要です。例えば校正作業の作業者、毎日の点検作業の作業者、交換用ビットというマテリアルです。

 

労働者(リソース)と一般的な労働(サービス) 

 労働者もリソースである以上、賃金は労働者の時間を占有することに対する対価と解釈できます。労働基準法の解釈は、これを裏付けています。たとえば、労働政策研究・研修機構のホームページには、労働時間の定義として、以下のような記載があります。「労基法32条のいう労働時間(「労基法上の労働時間」)は、客観的にみて、労働者の行為が使用者の指揮命令下に置かれたものと評価できるか否かにより決まる。*1」 。いくらあなたが素晴らしい能力を持っていたとしても、誰かに時間を占有され(指揮命令下に置かれ)なければ、賃金は発生しません。

 なお、「労働力」と、他のリソースの最大の違いは、リソースの所有者です。労働者そのもの、つまり私たち自身は、誰にも所有されていません。少なくとも、人的資源の所有権のやり取りは禁じられています。なぜなら、貨幣と人的資源の所有権を交換する取引とは、奴隷取引に他ならないからです。

 

人権思想との関わり

 人間ひとりひとりがリソースであり。リソースである以上、価値があります。そう決めたものを人権思想における生存権と解釈します。たとえ、あなたが、今日1日何も生産しなかったとしても、あなたの存在価値を裏付けるものは、存在そのものであって、あなたの生産物ではないわけです。

 誰かが、あなたの時間を占有した時、その使用者は、あなたの価値ある時間を占有したのですから、その対価を支払わなければいけません。そして、その対価は、あなたの存在を維持するために十分な対価、「健康で文化的な最低限度の生活」を維持するために十分な対価でなければいけません。