実物資産と経済的取引 - 「情報」

説明

「情報」とは、抽象的な「意味」を持つものです。他の実物資産と比較した場合、情報は次の特性を持ちます。

 

・情報の占有ができない。

・「在庫」に該当する概念がない。

・経済的取引とは、利用権の取得もしくは、情報の複製を意味する。

 

 Amazon Kindle電子書籍を購入した場合を考えます(Amazonにお金を落としたくないという方は、別の電子書籍サービス、例えばKADOKAWABOOK☆WALKERや、DMMブックスやNatureでも構いません)。あなたは、手持ちの携帯端末を手に取り、Kindleを立ち上げ、ストアからある電子書籍を選択し、[注文を確定する]ボタンを押します。しばらくすると、Kindleのライブラリに購入した電子書籍の書影が現れます。書影を選択すると、電子書籍を読むことができるようになります。電子書籍のデータは、携帯端末にダウンロードされています。電子書籍の代金は、クレジットカードで支払われます。翌月に、あなたの銀行口座から引き落とされます。

 この一連の経済的取引を持って、あなたは電子書籍という情報を利用できるようになります。

 さて、この経済的取引の中で、あなたは「情報」を占有したのでしょうか?

 経済的取引を行う前は、電子書籍の情報はAmazonのデータサーバにありました。経済的取引を行った後は、情報は、あなたの端末にもダウンロードされ、あなたはいつでもその電子書籍を読めるようになりました。もちろん、Amazonのデータサーバにも情報は残っています。でなければ、Amazonは他の顧客にも情報を販売できないからです。

 経済的取引を行う前は、情報は一ヶ所のみに保存されており、経済的取引を行った後は、情報は、データサーバとあなたの端末の二ヶ所に保存されています。つまり、経済的取引を行うことで、情報が複製されているわけです。情報が複製されるということは、情報が占用できないことを意味します。

 もっと単純な例、あなたがある情報-たとえば今読んでいる推理小説の犯人-を他人に話したとしましょう。そして、その対価を相手からもらったとしましょう。その場合、”推理小説の犯人”という情報はあなたの頭の中にも、話し相手の頭の中にも残ります。やはり、貨幣と引き換えに、情報の複製が行われているわけです。そして、その情報は非専有です。

 

 このような性質を持つものとして、以下のような実物資産が考えられます。

 

・書籍

・音楽産業(音楽CD、mp3ファイル)

・設計図、仕様書、報告書

・アニメーション、映画、イラストレーション

・ソフトウェア(アプリケーション、組込)、ゲームのDLC

・有形無形のノウハウ

・情報成果物

 

 あなたが、電子書籍やmp3ファイルやゲームのDLCを購入したとき、あなたは、数Mバイトのpdfファイルやmp3ファイルそのものに対して対価を支払っているわけではありません。そのpdfファイルやmp3ファイルで表現された何か、0と1のビット列であらわされた、人間に対して意味を持つ何かに対してお金を支払っています。

 研究開発もそうです。あなたが論文を購入したとき、あなたは、紙に対して代金を支払っているわけではなく、紙に書かれた情報に対してお金を支払っています。

 やや似ているものが、書籍や音楽CDです。紙の束やCD-ROMといった物理的なマテリアルに対してもお金を支払っていますが、大半は本文や表紙や音楽やライナーノーツといった、そこに印刷された何か、記録された何かに対してお金を支払っています。

 キャラクターグッズも書籍に似ています。アクリルフィギュアは、アクリル板に対してお金を支払っているのではなく、そこに印刷されたキャラクターに対してお金を支払っています。

 情報は、文字や画像や音声以外の形でも提供されることがあり得ます。分別されたゴミも情報に含まれます。月曜日に集積所に出されたごみは燃えるゴミ、土曜日に集積所に出されたごみはリサイクルできるプラスチック、というように人間にとって何らかの意味があればよいのです。