価値観、価値、価格 - 価値観と価値

価値観と価値

 

 実物資産には価値があります。この文章では、「価値」の定義として、実物資産が持つ「「よい」といわれる性質」*1を採用します。しかし、ただ漠然と「よい」と言われるだけでは困るでしょう。何が「よい」のか定義されていないからです。そのため、実務においては、実物資産の企画・開発・設計・調達・製造・物流・販売等の各過程を経るうちに、「価値」はより明確化・具体化されてゆきます*2*3。最終的に、「価値」は、「価値観」と「仕様もしくはその数値」という形で実物資産に反映されます。

 

 「価値」は、”新鮮さ”と”収穫後の経過日数”で表わされるのかもしれません。例えば、あなたが野菜を売るとき、

「このトマトは”新鮮”だよ。産地直送!昨日収穫されたばかりなんだ。」

 と言って、売るかもしれません。

 

 「価値」は、”頑丈さ”と”乗ることができる成人男性の人数”で表わされるかもしれません。例えば、あなたが倉庫の営業担当者で、担当製品の説明をするとき、

「この物置は”頑丈”です。人が100人乗っても潰れません。雪国でも安心して使えることの証明です。」

 と、長所を説明するかもしれません。

 

 「価値」は、「マテリアル」の材料に関する性質で、”指令の順守”と”有害物質の含有量”で表わされるかもしれません。例えば、あなたは、選定した部品に対して、

「この部品はEUに出荷する製品に採用したら駄目だよ。RoHS2指令を満たしていない。メッキに六価クロムが含まれていて、含有量が基準値の100ppmを超えてしまっている。多少高いけれど、この型番にして。含有量は基準値内だ。」

 と、指摘を受けるかもしれません。

 

 「価値」は、「マテリアル」の調達に関する性質で、”納入リードタイムの短さ”と”納入リードタイム”で表わされるものかもしれません。例えば、あなたは、調達担当者で、

「このWEBショップで部品を購入すると、ふつう、納期は1週間かかる。けれど、この通販サイトにはオプションがあって、ほら、ここにチェックを入れると納期は5日になる。2日短縮できる。予算内だし、納期が厳しいし、このサービスを使おう。それだけの価値はある。」

 と、助言を受けるかもしれません。

 

 「価値」は、“入手性”と”入手確率”で表わされるものかもしれません。例えば、あなたは、サークルの飲み会で、

「悩む理由が値段なら買え。買う理由が値段なら買うな。個人出版物はいつでも手に入るとは限らない。手に入らなくなってから、あの時買っていればと後悔しても遅いよ。俺は後悔したことがある。」

 と、先輩が口走るのを耳に挟むかもしれません。

 

 「価値」は、「マテリアル」の生産に関する性質で、”持続可能性”かもしれません。例えば、あなたは環境問題に関心を持っていて、トイレットペーパーを買うときに、FSC認証を受けた木材を利用した製品を選択するかもしれません。

 

 「価値観」を集めたものが思想です。「価値」は、「人権思想」かもしれません。例えば、あなたは、

「この国は、とある地域で、少数民族に対してジェノサイドとも解釈できる政策を行っています。そして、あなたの企業はその地域に工場を所有しており、数多くの少数民族出身者が、劣悪な条件で働かされていることを我々は確認しています。我々の価値観としては、このような人権侵害に加担することは、許されないことと考えます。あなたの企業との契約を打ち切ります。」

 と、宣言される側かもしれませんし、宣言する側かもしれません。

 

 いま挙げた例は、価値観と仕様のほんの一例です

 原材料の生産地、保管年数、検査票の有無、不純物の割合、最高速度、燃費、乗り心地、断熱性、築年数、色合い、駅からの所要時間、情報の新鮮さ、速報性、正確さ、精密さ、サポート体制、速達性、快適さ、供給者との個人的な関係性、宗教の戒律、持続可能性、外部性…。

 他にも、無数の価値観と仕様があるでしょう。そして、価値観と仕様の対応は、必ずしも1対1であるとは限らないでしょう。

 購入者や利用者は、自覚的であれ無自覚的であれ、自らの価値観に従って「マテリアル」を購入し、「用役」を消費し、「リソースによるサービス」や「情報」を利用します。

 生産者や販売者は、自覚的であれ無自覚的であれ、自らの価値観に従って「マテリアル」を生産し、「用役」を供給し、「リソースによるサービス」や「情報」を提供します。

 価値は価値観によって決まります。価値観は、時代、地域、宗教、年齢、職種、性別などによっても異なるでしょう。しかし、もしかしたら、不変的かつ普遍的な価値観が存在するかもしれません。もし、そのような価値観があるとすれば、それは、”人権思想”かもしれません。