価値の生成と消失 - マテリアル

価値の生成と消失

 価値は、どのような要因で生成し、そして消失するのでしょうか。本項目では、価値の生成と消失について検討します。

 まず、価値が生成する理由は、次の二つの理由が考えられます。

 

a-1. 実物資産が調達された。

a-2. 経済的主体が、自らの価値観に従い、すでに存在する実物資産に価値を与えた。

 

 そして、価値が消失する理由は、次の二つの理由が考えられます。

 

b-1. 経済的主体が、自らの価値観が変わったことによって、すでに存在する実物資産に対して、価値を見出さなくなった。

b-2. 実物資産が消滅した。

 

順番に検討してゆきます。

 

 実物資産の調達

本項目では、実物資産がどのように生成するか、実物資産および調達先ごとに分けて検討します。

 

経済的主体の外部からの調達

 経済的主体の外部から実物資産を調達する場合、基本的な考え方は、企業や家計と同じです。ある経済的主体は、別の経済的主体と、外貨と実物資産を交換します。ある経済的主体は、実物資産の所有権を外部の別の経済的主体に移転し、外貨を入手します。これは、一般的に輸出と呼ばれる行為です。また、ある経済的主体は、自らが所有する外貨を、別のマテリアルと交換します。これは、輸入と呼ばれる行為です。ある経済的主体が日本国の場合、ドルが該当します。日本国は、カタールからLNGを輸入し、その対価をドルで支払います。日本国外に自動車や電子部品を輸出する場合、その対価はドルで支払われます。

 

経済的主体の内部からの調達

 経済的主体の内部から実物資産を調達する場合を検討します。実物資産を、マテリアル、用役、リソースによるサービス、情報に分け、それぞれについて検討します。

 

マテリアル

 私たちの周りには、たくさんのマテリアルが存在します。目の前にはパソコンやスマートフォンが、部屋の中には本棚や家電製品や装飾品が、台所には冷蔵庫がありその中には生鮮野菜や魚介類が入っています。さて、あなたの周囲にある様々なマテリアルはいったいどこから調達されたものなのでしょうか?

 

在庫

 まず、在庫からの調達が考えられます。『広辞苑』では、在庫を次のように定義されています。

  • 倉庫にあること。②財貨が原材料・仕掛り品・製品などの形で企業内に保有されていること。または、その状態にある財貨。[1]

 JIS Z 8141 : 2001 生産管理用語では、次のように定義されています。

  • a) 将来の使用・需要に備えて意図的に保有する原材料,仕掛品,半製品及び製品 b) システム内のストック,原材料,仕掛品及び完成品の物理的数量。 備考 その必要理由に応じてロットサイズ在庫,安全在庫,見越在庫などの呼称があるが,意図的でなく結果として保有せざるを得ない物も在庫という。」[2]

 

 家電量販店、コンビニエンスストア、百貨店、ホームセンター、100円ショップなどの店頭やバックヤードに保管されている商品は、すべて在庫です。また、工場の製品倉庫にも完成品が在庫されます。工場の製造ラインでは、さまざまな仕掛り品が在庫されています。工場の部品倉庫にも、電線、ボルト、実装済み基盤等の部品という形で在庫されています。一次受けの部品メーカはトラックや貨物列車で輸送しますが、この輸送中の部品も在庫と考えられます。一次受けの部品メーカの先には、二次受けの部品メーカがあり、二次受けの先には三次受けがあり、三次受けの先には…とサプライチェーンが続きます。このサプライチェーンの先には何があるでしょうか?

 輸入をするための港がある。というのも一つの回答です。それ以外にはないのでしょうか?

自然界からの取得

 ジャンボジェット機の組立を考えましょう。ジャンボジェット機体という製品は多くの部品から構成され、その部品もまた多くの部品から構成されます。胴体は、4分割したパネルから構成されています。

 組立メーカは、板材メーカから板材や棒材を買います。板材メーカは素材メーカからインゴットを買います。素材メーカは精錬のために資源大手から鉱石を購入するでしょう。資源大手は採掘をします。つまり、最終的に鉱山に辿り着きます。鉄、アルミ、銅、スズ、鉛、金、銀、プラチナ等すべての金属資源は最上流に鉱山が存在します。

 電源を考えましょう。電源メーカは、外部からさまざまなマテリアルを購入しています。それは、ABS樹脂製の匡体であったり、ステンレス製のネジだったり、電源ICだったり、電解コンデンサだったり、ベアボードだったり、電線だったりします。プラスチック成型メーカは、樹脂メーカからABS樹脂を購入します。樹脂メーカは、材料となるアクリロニトリル、ラテックス、スチレンから合成されます。その一つのアクリロニトリルは、素材メーカが、プロピレンアンモニアから合成します。では、プロピレンはどこから調達するのでしょう。それは、ナフサを熱分解して得られます。ではナフサはどこから得られるのでしょう?原油を常圧蒸留装置で蒸留分離して得られます。では原油は…?油田です。鉱石と同様に、石油製品や樹脂製品の最上流には油田があります。

 ガラス製品やコンクリート製品の最上流には砂の取得と石灰石鉱山があります。陶器の最上流には、陶土や粘土の採掘があります。リン製品の上流にはリン鉱山があります。硫黄の上流には硫黄鉱山や石油精製設備の脱硫装置があります。水産物の最上流には、海洋や河川からの水産物の取得があります。木製品の最上流には、森林があります。農業や綿花の最上流には、水と大気中のCO2があります。エアーや液体窒素の最上流には、大気があります。多くの希ガス、アルゴン、キセノン、クリプトン、ネオンの上流には大気があります。ヘリウムは地下資源であり、一般的に天然ガス田から採取されます。紙・パルプ製品の最上流は森林です。畜産物は飼料や牧草地の草が最上流です。こうして具体例を考えてみると、マテリアルの起点には、「自然界からの取得」が存在することがわかります。

 どこからどこまでが自然界かという定義問題は発生するでしょう。また、自然界と人間界の間にグレーゾーンもあるでしょう(例えば、里山から燃料用の薪を拾い集める場合、里山は自然界に該当するか等)。しかし、たとえば薪ならば、風呂場の脇に積み上げられた段階で、取得されたと見なされるでしょう。

 余談ですが、経済学では「フリーランチなどというもの存在しない」そうです。それは本当でしょうか?私にはこれは極めて疑わしいものと思えます。「マテリアルの売買とは、その所有権の移転であるということ」「マテリアルの供給網の最上流では、マテリアルを自然界から取得していること」という2点を踏まえると、人間社会は自然界に対してフリーランチをしています。自然は人間社会の発行したドル札を受け取りません。にもかかわらず、人類は、自然から様々なマテリアル類を一方的に取得しているからです。

 

リサイクル

 2つ目は、人間社会から調達されます。例えば、リサイクル品、中古品、古紙、鉄スクラップ、ビンやカンといった資源ごみ、焼却炉の溶融メタル、焼却灰といったマテリアル類です。私たち人体も調達元含まれる場合があります。例えば、化学肥料が普及していなかった時代の糞尿、献体、ヘアードネーションの髪です。

 

[1] 新村出編、「広辞苑 第六版」、2008年、岩波書店、p1087

[2] 「JIS Z 8141 : 2001 生産管理用語」