実物資産と経済的取引 - 「マテリアル」

 経済的取引の対象となる実物資産には、次の4種類があります。「マテリアル」「用役」「サービス」「情報」です。それぞれの特性について説明します。

 

マテリアル

説明

 マテリアルとは、具体的なモノ・コトであり、在庫できるものを指します。また、マテリアルは、区別し、計量し、占有し、保管し、組み合わせたり、加工したり、消費できます。

 マテリアルの経済的取引とは、マテリアルの所有権の移転を示します。マテリアルの消費と所有権の移転は、必ずしも同時におこるものではありません。

 ディーラーが消費者に自動車を販売するとき、自動車の所有権はディーラーから消費者に移転します。あなたがスーパーマーケットで野菜を買うとき、野菜の所有権はスーパーマーケットからあなたに移転します。サプライヤが工場にボルトやナットを納品するとき、売買契約の内容に従い所有権は移転します[1]コンビニエンスストアで剃刀を買うとき、ホームセンターで灯油を買うとき、八百屋でスイカを買うとき、地場のスーパーで鮮魚を買うとき、いずれの場合も、マテリアルの所有権が販売者から消費者に移転し、代わりに、貨幣が消費者から販売者にわたります。

 経済的取引(つまり、マテリアルの所有権と貨幣の交換)が発生してから、消費ないし次の経済的取引が発生するまでの間、マテリアルは「在庫」されます。この「在庫」はさまざまな形をとります。例えば、自動車ディーラーの店頭に展示された自動車、冷蔵庫の野菜や鮮魚、工場の部品倉庫のボルト、ホームセンターやコンビニエンスストアで陳列された商品類、工場の完成品倉庫や、移動中の船舶のコンテナの中、販売店のバックヤード、工場内の仕掛品、貯蔵工程で熟成中のウイスキーエージング工程の基板、ガスタンクの中の液化天然ガス(LNG)などです。

 マテリアルは、取引後の加工、組みつけ、消費に伴って、その性質や形状を変化させます。ボルトやナットならば、製品に組みつけられたり、製造過程で紛失したりして消費されます。マテリアルそのものは物理的に消滅しません。たとえ、紛失したと思ったマテリアルも、機械と床の隙間に入り込んでいるとか、誤ってゴミ箱の中に入ったとか、かならずどこかに物理的な実態として存在し続けているはずです。

 しかし、マテリアルがもともと持っていた「価値」は、加工や組み付けの過程で失われ、別の価値に変わったり、価値がなくなったり、マイナスの価値に変わったりします。組み付けに使用されたM3のボルトは、在庫された状態で持っていた「何かを固定する」という価値を失い、「自動車のある部分を固定する」という価値に変わります。紛失したボルトは、「何かを固定する」という価値を失います。LNGとそれが持っていた化学エネルギーは、燃焼とボイラーとタービンというエネルギー転換過程で、電気エネルギーと水蒸気と二酸化炭素に変わります。そして、「エネルギーを在庫できる」という価値は、電力という「生活に不可欠」という価値[2]と、水蒸気という使用用途のない無価値なものと、二酸化炭素という「気候変動を加速させ、人類文明を危うくする」というマイナスの価値に変わります。

マテリアルとして、以下のようなものが考えられます。

 

・農産物、水産物、林産物

・加工食料品、飲料・たばこ・飼料、繊維、木材・木製品、

 家具・装備品、パルプ・紙・紙加工品、毛皮、なめし革・同製品

原油、石炭、天然ガスなどのエネルギー資源

・化学工業製品、石油製品・石炭製品、プラスチック製品、ゴム製品

・鉄鉱石、非鉄金属鉱、リン、硫黄などの地下資源

・窯業・土石製品、鉄鋼、非鉄金属製品、金属製品

・製品

・印刷業の一部製品、汎用機械、生産用機械業務用機械器具、

 電子部品・デバイス・電子回路、電気機械器具、情報通信機械器具、

 輸送用機械、その他の製品

・資材(部品、材料、原料等)

・包装資材(容器、ラベル、キャップ、袋、外箱など)

・副資材(塗料、切削油、スペーサ、バルブ材など)  

・各種ガス(窒素ガス、酸素ガス、二酸化炭素ガス、希ガス(ヘリウムを除く))、ヘリウム

・河川の原水、化石水

・土地

・(施主と施工者にとっての)土木建築物

・廃棄物

具体例

スーパーマーケットで販売されている品物

 あなたはスーパーマーケットにいます。あなたがそこでミニトマト一パックを手にした時点では、そのミニトマトの所有権はスーパーマーケット側にあります。あなたが、そのミニトマトをレジに持って行き、代金を支払い、マイバックの中に入れる。この一連の手続きを経た結果、ミニトマトの所有権はあなた自身に移り、ミニトマトに相当する貨幣を失います。スーパーマーケットは、ミニトマトというマテリアルを失う代わりに、ミニトマトの価値に相当する貨幣を得ています。

工場への納品 

 組立加工型の工場では、外部のサプライヤから多種多様なマテリアルを購入します。シャフト、基盤、金属製や樹脂製の匡体、ネジ・ボルト・ナット、電線類、アルミインゴット、ボタンスイッチ、塗料、梱包材、印刷用のシール…これらの様々なマテリアルに対し、切削、加工、組み付け、組み立て、塗装などの作業を行い、製品として出荷します。入荷したマテリアルは、検収部門で検収されます。そこでは、目の前の現物とサプライヤに提示した発注書の内容に相違がないか確認作業が行われます。合格であれば、代金がサプライヤの口座に振り込まれます。これら一連の作業を通じて、マテリアルの所有権は工場に移り、マテリアルに相当する貨幣がサプライヤに移ります。

廃棄物処理

 廃棄物は、その所有者にとって負の価値を持つものです。例えば、排泄物は「汚い」ですし、読み返さない新聞紙は「場所をとる」し、水銀含有物は「有害である」し、二酸化炭素は「気候変動を加速し人類文明を危機に至らせる」といった負の価値です。負の価値をもつマテリアルの所有権を、所有者から処理業者に引き渡すのですから、所有者は、負の価値を打ち消すだけの価値あるものを、処理業者に渡さなければいけません。