【閑話休題】家計、企業、利益
本稿は、貨幣の総量が一定の社会における企業利益について検討します。この議論を行う上で、次の前提を置きます。
(1)ある国家を想定し、その国内のみの企業活動を検討の対象とする。
(2)企業及び家計が存在する。ここでは、一定期間の間に何らかの形で人を雇い、賃金が発生する形態のものを「企業」。そうではないものを「家計」と呼ぶ。
(3)政府支出と歳入は等しい。つまりプライマリーバランスは0円であり、政府支出による新規の貨幣生成はないものとする。
(4)銀行による貸出額と返済額は等しい。銀行の貸出による新規の貨幣生成はないものとする。
(5)この国の海外との経常収支の総額、つまり貿易収支、サービス収支、第一次所得収支、第二次所得収支の総計は0とする。これは、例えば貿易で黒字を出していたとしても、それ以外の項目で赤字を出しており、赤字額と黒字額がぴったり一致していることを示す。
(6)企業から家計へと貨幣が移転する[1]。
(7)家計から企業へと貨幣が移転する。B2Cビジネスと呼ばれる取引が該当する[2]。
(8)企業間で貨幣が移転する。この移転は、実物資産の所有権の移転ないしは利用を伴う。B2Bビジネスと呼ばれるものがこの取引にあたる[3]。
(9)家計間でも貨幣が移転する[4]。
(10)企業は貨幣を貯蓄できる。貯蓄額は時間的に変化がなく一定とする。
(11)家計は貨幣を貯蓄できる。貯蓄額は時間的に変化がなく一定とする。
このような状態において、家計と企業に注目して、貨幣の流れを示したものが以下の図です。
図 において、矢印は貨幣の流れを示します。貨幣を生産できるのは、銀行による貸出、政府による支出、海外の3パターンだけです。そして、前提条件でも触れたように、貨幣の生産量を0としています。家計と企業は、貨幣を貯蓄することができるが、貨幣を生産できません。貨幣の新規生産量が0であるから、貨幣は企業と家計の間、企業と企業の間を往復するだけです。利益とはこの往復からはずれた貨幣の量を指します。そして、その貨幣は貯蓄に向かうしかありません。安定した状態においては、総貯蓄の増加分が0でなければならないため、企業の総利益も0でなければなりません。
[1] 賃金、中古品の買取、太陽光発電の売電、アフィリエイトの支払いなど
[2] 自動車の購入、ガス・電気・水道の利用、鉄道運賃、電気工事費用、電子書籍など
[3] 部品や製品の納品、利財の買取、生産財、ガス・電気・水道などの利用、不動産の賃貸、線路使用料、人材派遣、報告書の購入、論文の購入など