借金と緊縮財政 - 経済的主体、借金、緊縮財政

 一般的な用法として、「借金」という言葉を使うとき、ある経済的主体が、その経済的主体の外部の別の経済的主体に対して、外貨建てで負っている債務を指します。そして、借金を返済するということは、ある経済的主体の外部へ外貨が出ていくことを指します。

経済的主体=家計の場合における借金

 例えば、「家計の借金」は、家計の外部の誰か(例えば銀行)に、外貨(この場合は日本円)で返済しなければならない負債を意味します。

 借金を返すために行うことは、外貨収入を増やし、外貨での支出を減らし、余剰となった外貨で借金を返済することです。借金の原因は、車のローンかもしれないし、家のローンかもしれないし、奨学金かもしれません。借金の額は、10万円かもしれないし、1億円かもしれません。しかし、要因が何であれ、額面が何であれ、返済のために行うことは同じです。

経済的主体=企業グループの場合

 企業のグループの借金の場合も、基本的な考え方は家計と同じです。企業グループの外部にある経済的主体(例えば銀行)に、外貨(この場合は日本円)で返済しなければならない負債を意味します。

経済的主体=国家の場合

 「政府の借金」という場合、注意しなければいけないことがあります。それは、政府が、誰に対して借金を負っているかです。

 もし、政府が、外貨建て(例えばドル建て)の借金を、自国以外の経済的主体(ここでは別の国家や世界銀行)に対して負っているのであれば、それは企業や家計が負う一般的な借金のイメージと同じです。借金を返済するために、収入を増やし、支出を減らさければいけません。借金は外貨建てなのですから、国外に流出するドルを減らし、ドルを稼ぎ、ドルで返済することです。つまり、輸入を減らし、輸出を増やす。断熱や再生可能エネルギーの推進で、石油、石炭、天然ガスといった外部から輸入する実物資産を減らし、競争力のある製品で輸出品やインバウンドで輸出する実物資産を増やすことが必要です。

 一方、「政府の借金」が、「自国通貨建て(円建て)の国債」を指しているのであれば、別の判断が必要になります。なぜなら、国債の発行と政府支出による銀行預金の発行は裏表の関係にあるからです。国債発行残高は、今までに発行済みの自国通貨建ての貨幣の総量を示しているにすぎません。この場合、貨幣の総量が適切であるか、政府支出額が目的に照らし合わせて適切であるか、政府支出に対応する実物資産があるかどうかが問題であり、借金があること自体が問題ではありません。

経済的主体=人間社会の場合

 経済的主体を人間社会全体にまで拡大した場合、人間社会の外部には、自然があります。そして、人間社会は自然から様々なマテリアルを取得しています。ここで注意すべき点は、人間社会は、自然からマテリアルを取得するに当たって、対価を支払っていないということです。人間社会は自然からマテリアルを取得する一方で、マテリアルに対し対価を支払っていないのですから、人間社会は自然に対してフリーランチしていることを意味します。

 このようなフリーランチの例として、地下資源の採掘、水産資源や林産資源の取得、大気や希ガスの取得、自然エネルギーの取得などがあげられます。

 また、フリーランチの結果取得したマテリアルの例として、化石性の地下資源(石油、石炭、天然ガスなど)、鉱物性資源(鉄鉱石、ボーキサイト、ウラン、その他金属性資源)、ヘリウム、砂、リン鉱石、塩、宝石、水産物、林産物(木材やパルプなど)、大気(窒素ガス、二酸化炭素ガス、希ガスなど)、水(河川からの水の取得、天水、化石水など)、太陽光、太陽熱、風力などがあげられます。

 このうち、多くのマテリアルは無尽蔵ではなく、量に限りがあります。代表的なものは石油、石炭などの化石性の鉱物資源です。また、いくつかの資源は、自然に回復しますが、その回復率は人間社会の消費率よりもはるかに低いです。その一例はウナギです。

 現時点では、無尽蔵と扱ってよいものあります。太陽光はその一例です。また、窒素ガスもそうです。しかし、自然から取得されるマテリアルには、その量に上限が存在する場合が圧倒的に多いでしょう。いわゆる「限られた資源」です。なぜ、限られているかというと、それらのマテリアルの生産は自然が行っている(または行っていた)ためです。自然は人間社会の都合は一切気にしません。ですから、人間社会は自然に対して生産量を指示できません。あるもので我慢するしかありません。そして、「限られた資源」ということを意識すると「浪費を止めて」「資源を節約し」「将来への負担をなくそう」という考え方になります。つまり緊縮です。

 ニュースでは「原油生産」と呼んでいるじゃないか、という人もいるかもしれません。しかし、私たちがふだん原油生産と呼んでいる行為は、地層内部にある原油を地上へ運び出す輸送行為です。人類社会の外部から供給された原油は、パイプラインやタンカーで輸送され、精製プラントで精製され、使い捨てプラスチックに加工され、使用され、廃棄され、ゴミ収集車に回収され、焼却炉に投入され、CO2として大気中に放出されます。誰ひとりとして、CO2から原油を作り出す生産能力を持っていません。そのため、地層内部の原油は減る一方です。

 さて、ある経済的主体は、ある財(実物資産と貨幣を含めた財)の生産量を指定できない点で、人間社会と自然の提供するマテリアルの関係は、家計・企業と政府の発行する貨幣の関係に相似です。人間社会が石炭や石油の生産量を指定できないように、家計や企業は紙幣や銀行預金の発行量を指定できません。したがって、家計や企業は豊かになるための方法の一つとして、緊縮策を取ることになります。

 言い換えれば、実物資産であれ貨幣であれ、「ある経済的主体と、その経済的主体が生産量を制御できない任意の資産がある場合、その経済的主体はその資産に対して緊縮策を取る」ということです。ということは、「ある経済的主体と、その経済的主体が任意の資産の生産量を指定できる場合、その経済的主体は緊縮策を取る必要がない可能性がある」ということです。そして、国家とその国家が発行する貨幣はまさにそのような関係にあります。

 

2022.08.29 新規投稿

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